JA埼玉みずほ

金融機関コード 4859

法律相談

意味不明な遺言。相続登記は困難

質問

 ”遺言書「私は、財産を一郎にあげます。」平成二一年一月三日  甲野太郎?

  亡き父の遺品を調べていたら、金庫の中から、別掲の父の自筆による遺言書が出てきました。自筆遺言なので、裁判所に申立てをして、検認(遺言書の確認)手続きも行いました。「甲野太郎」は私の父で、「一郎」は私の名前です。父は生前に、長男の私に全財産を相続させたい、と言っていました。この遺言書で、父の全財産を私名義に相続登記をすることができるでしょうか。

回答

 この遺言書は、法律が定める自筆遺言の方式に従い、遺言者が全文を自書し、日付を書き、署名押印をしていますから、適法に作成された遺言といえます。

 しかし、適法に作成された遺言書であっても、遺言の内容が不明確な場合には、せっかく遺言を書いても、遺言の効力が生じない(無効)ことがあります。

 公正証書遺言の場合はともかく、自筆遺言の場合は、一人で考えて書きますから、ひとり合点をして、自分ではわかったつもりで書いても、本人以外の人には意味不明であったり、どうにでも解釈できる内容であったりすることが多々あります。遺言内容を十分検討してから作成することが肝要です。

 ところで、この遺言書では、「私は、財産を一郎にあげます」と記載されているだけなので、これでは、一郎に全財産をあげる趣旨なのか、それとも特定の財産をあげる趣旨なのかが不明であるほか、「一郎」とはどちらの一郎を指すのかも不明といわざるを得ません。

 このように、遺言内容が意味不明であったり、どうにでも解釈できるものである場合には、その遺言書で相続登記を申請しても、「遺言趣旨不明」により法務局に受付けてもらうことができず、相続登記をすることはできないでしょう。

 なお、検認手続きを終えてからといっても、自筆遺言が有効となるものではありませんので注意してください。

 しかし、遺言趣旨が不明確だとしても、ただちに遺言の効力がまったくないというわけではありません。
 
 遺言趣旨が不明確な場合、その遺言書の内容をどのように解釈すべきかについて、最高裁は、「遺言書を解釈するにあたっては、単にその記載のみから形式的に解釈することなく、作成当時の事情や、遺言者の置かれていた状況等を考慮して、その真意を探求してその趣旨を確定すべきである」と判示しているからです(最判昭58・3・18)。

 ですから、あなたは、この遺言書で「財産を一郎にあげます」とあるのは、亡き父の「全財産を長男一郎に相続させる(又は「遺贈する」)趣旨である」ことの確認判決を求める裁判を提起して、その勝訴判決を得ることができるならば、この遺言書と判決書に基づいて、亡き父の全財産をあなた名義に相続登記をすることができるでしょう。

(弁護士 長島佑享)