JA埼玉みずほ

金融機関コード 4859

法律相談

「発語が不自由で公正証書遺言は?—口授し押印すれば有効」

質問

 脳出血による後遺症のある父に公正証書遺言を作成してもらう予定です。発語は不自由ですが、時間をかければ会話できます。公正証書遺言の作成は可能でしょうか。

回答

 脳出血による後遺症で発語が不自由であっても、遺言者が事理弁別能力を有し、自己の意思の伝達ができるならば、遺言公正証書を作成することはできます。

 ただ、公正証書によって遺言をするには、(1)遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること、(2)公証人が遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせること、(3)遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し印を押すことが必要です(民法969条)。

 そこで、(1)については、遺言者が直接公証人に口授するのが原則ですが、判例は、「公証人が、あらかじめ他人から聴取した遺言の内容を筆記し、公正証書用紙に清書したうえ、その内容を遺言者に読み聞かせ、遺言者が右遺言の内容と同趣旨であることを口授して、右書面に自ら署名押印したときは有効」と判断しています(最高裁昭和43年12月20日判決)。

 また、(2)(3)に関して、判例は、「遺言者が、公正証書によって遺言するにあたり、公証人の質問に対し、言語をもって陳述することなく、単に肯定又は否定の挙動を示したにすぎないときは、民法969条にいう口述があったものとはいえないから、同遺言公正証書を無効と判断しています(最高裁昭和51年1月16日判決)。

 なお、遺言者が自ら署名することができないときは、公証人がその事由を付記して、署名に代えることもできます。

葬儀費用は遺産から支払える?—相続人の協議が必要

質問

 亡き父の葬儀を長男の私が喪主として執り行い、その費用に300万円ほどかかりました。これを遺産から支払ってもらうべく弟妹らに話したところ、葬儀費用は喪主が負担すべきものであるから、遺産から支払うことはできないと断られました。私が自己負担しなければなりませんか。

回答

 葬儀は、通常、喪主と葬祭業者が請負契約ないしは委託契約を結び、同契約に基づいて執り行われます。従って、喪主は葬祭業者に葬儀代金を支払う義務を負います。問題は、喪主が支払うべき葬儀費用を遺産から支払ってもらえるか、あるいは、喪主が自己負担して支払わなければならないのかということです。

 この点について、判例は、(1)葬儀費用は法律上当然にその遺産相続人が各その法定相続分に応じて負担すべきとするもの(東京高等裁判所昭和30年9月5日決定ほか)、(2)葬儀費用は、特段の事情がない限り、葬式を主宰した者すなわち喪主が負担すべきであるとするもの(東京地方裁判所昭和61年1月28日判決)、(3)葬儀費用は相続財産の負担とするもの(東京地方裁判所昭和59年7月12日判決ほか)などがあり、裁判所としての確定した判断はまだ出ていません。

 従って、あなたの場合、葬儀費用を誰が負担すべきかについて確定的にお答えすることはできません(葬儀前に相続人間で協議して決めておくべきです)。あなたとしては、葬儀費用から香典を控除した不足額を誰が負担するかについて、遺産相続のなかで弟妹らとよく協議して決める以外ないでしょう。

(弁護士 長島佑享)