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税務相談

生前対策を行った場合の相続税はどう変わるのか(上)

 周囲で相続人間の争いを見るにつれ、来たるべき相続に備えた生前対策を考えています。長男の嫁を養子にするとともに、長男には農業経営を移譲し農地を生前に一括贈与したい。できれば長男夫婦に身上をまかせるためにも、貸家の一部を長男のものにして遺産が増えないようにしたい。養子縁組や生前贈与を行った場合、相続税の負担は軽くなりますか。また、相続時にどんな問題が想定されますか。

回答

 昭和22年5月3日から均分相続になって63年経ちますが、日本の社会では相変わらず長子相続が重んじられています。家を守るために親の財産のほとんどを跡取りが相続するものだ、とするのに対して、他の相続人は法定相続分が前提だけに、生前から相対立しているのです。つまり、跡取りの『家を守るんだ』、という自負を裏付けるものが乏しくなってきたということなのです。それでも「いずれ長子が跡を取るはずだ」と決め込んで疑わない親が一向に減らない。我が家のために良かれと思って新築した貸家も、しょせん共同相続財産ですから分割協議のテーブルにのってしまうのです。相続税を節税しようと小手先の対策に腐心しているうちに、遺言書のない相続を迎えてしまう例は枚挙に暇がありません。

  であるならば、相続に向って今何をすれば良いのか。まず各相続人の自立を見届けることから始めましょう。自立に必要な財産を生前に準備し相続財産としないこと。相続財産は親の仕事や生活を相い続けるために遺されたものだけに、生前贈与、遺言書、仮登記などによって、しかるべき後継者に確実に相続させるしくみをつくること。想定される相続税は家業の収入(延納)で賄えるようにし、なお不足分は事業や生活に必要でない財産から納税にあてるよう見直しをします。相続税を余計に納めないためにも親などからの住宅資金の贈与の特例、配偶者からの居住用財産の贈与の特例、配偶者への年金の受給権の贈与などをフルに活用し、相続人を受取人とする生命共済契約を結ぶ。被相続人の居宅は配偶者や扶養する後継者が所有し住み続けること。宅地は宅地として農地は農地として、それぞれ利用目的にしたがって活用すること。被相続人の療養看護を社会や特定の子らに任せきりにせず、各相続人が応分の役割を分担することが大切です。

  とくに長男のお嫁さんを養子にすると相続税の基礎控除額が増え適用税率も緩和されることで相続税は軽減されます。相続人として、祭祀の主宰者として、家計の主宰者として、兄弟姉妹として存在価値を発揮してくれるものです。このように極あたり前のことを実行するだけで節税をともなった相続になるのです。

  生前贈与は、親の財産を減らして相続税を節税する手段とされていますが、過度な贈与は「やった人」と「やらなかった人」との不公平を是正する観点から、税制上は認められていません。贈与税の基礎控除110万円の範囲内で子や孫へ毎年贈与すると、10年20年の長期間には多額の相続財産を分散することができます。貰った方は確かな収入源であり生活費に消えてしまうことが多く、子供達の生活基盤の確立にはならず、相続後は収入減となり追加的な要求を出されかねない。明確な目的と目標のない贈与は効果が半減するばかりか、もめ事の原因にもなりかねません。

  後継者に経営を移譲するにあたって、長男へ農地の生前一括贈与をすると、贈与した親の相続が始まるまで農業経営を続けなければならない、など厳しい条件が課され、着実に事業基盤を築けることに相続人の異論はないはず。家の祭祀(まつりごと)を承継し、これを守り続けていくための費用は生活費とは別の財源を確保してあげなければなりません。そのためには、一定の収入が期待できる物件を相続時精算課税制度などの特例を利用して生計を主宰する後継者に生前贈与することにします。これらの対策は、親子がいっしょになって考え、総意のもとに進めていく限り争う余地はありません。

(税理士 西田 芳秋)