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税務相談

生前対策を行った場合の相続税はどう変わるのか(下)

 周囲で相続人間の争いを見るにつれ、来るべき相続に備えた生前対策を考えています。長男の嫁を養子にするとともに、長男には農業経営を移譲し農地を生前に一括生前贈与したい。できれば長男夫婦に身上をまかせるためにも、貸家の一部を長男のものにして遺産が増えないようにしたい。養子縁組や生前贈与を行った場合、相続税の負担は軽くなりますか。また、相続時にどんな問題が想定されますか。

回答

遺産分割の基本

 均分相続が定着しつつある中で、「家」を守ろうとして長子が家業や生活用財産の殆どを相続するには、他の相続人から相続分を無償で譲り受けるか、お金を払って相続分を買い取るか、相続を放棄してもらう必要があります。

法定相続分の計算

 いっそのこと遺言書によって跡取りに遺贈したり、生前贈与をして相続財産を全て処分しようとしても、相続人には遺留分の減殺請求権(子は法定相続分の二分の一に相当する財産を取り戻すことができる権利)や特別受益財産の持ち戻し計算(生前にもらった財産などを相続財産に加えて相続分を計算し直すこと)を請求することが認められています。したがって、長子相続には相続人全員の協力が不可欠であって、その結果は一に当事者の相続観にかかっていると云えます。

生前協議の必要性

 我が家のためという大義があっても、養子縁組や生前贈与を行う場合は親子の生前協議を経る位の慎重さがほしいところです。とくに、親子のきずなをつくる養子縁組、経営移譲に伴う生前贈与、生活を主宰するための財源としての貸家の贈与などを実行するときは、これらの動機を明らかにしておくことが大切なのです。

円満な相続とは

 誰もが期待する円満な相続とは、各相続人が主張する権利と負うべき義務に多少の不満があっても、被相続人の意思を尊重して分割案を争わないことだと思います。 つまり、親を扶養しながら家業に勤しみ、祭祀を主宰する相続人にはその義務の大きさを認め相応の財産を取得させることに全員の合意が得られることだと思います。

暦年課税と相続時精算課税

 借入金で購入した貸家を跡取りに贈与するとしても、贈与税の負担には大きいものがあります。そこで、貸家に係る相続税と贈与税の実効税率(千円の財産にいくら税金がかかるか)を対照し、相続開始時までの評価額の動きなどを想定して暦年課税(毎年基礎控除百十万円まで無税とされるもの)にするか相続時精算課税(六十五才以上の父母から二十以上の子へ贈与する場合、同一の親子間では特別控除二千五百万円まで無税、二千五百万円を超える部分は一律二十%の贈与税を納付しておき、贈与者の死亡に伴う相続において、これを相続財産に加算して相続税額を算出し、すでに納付した贈与税額を精算するもの)のどちらかを選んで申告をすることになります。

 しかしながら、一旦相続時精算課税制度によって申告した後は暦年課税に戻ることができませんので慎重に判断する必要があります。農地の生前贈与についても相続時精算課税制度を適用している場合は農地の贈与税の納税猶予の特例は受けられないので留意して下さい。

貸家を贈与する場合の留意点

 父のお客様が入居している貸家を子に贈与する場合の贈与税の課税価格(評価額)は、当該建物の固定資産税評価額の七十%相当額になります。同様の考え方から当該建物の敷地も貸家建付地として評価することができます。なお、父の借入金をどうするかが問題です。建物の借入金を受贈者である子に負担させると負担付贈与とされ、子に課される贈与税の課税価格は、贈与を受けた時の建物の価額(未償却残額としての帳簿価格など)から借入金を控除した残額になります。

 贈与した父には、負担させた借入金相当額で建物を譲渡したものとして譲渡税が課税されることになりますから、借入金を承継させない方が得策かもしれません。当然に、借家人から預かった敷金は新しい承継者に引き継がれることになっていますから、父から敷金相当額を金銭で預かっておくか、父が敷金を借家人に返還するなどして、承継しないよう工夫する必要があります。

生前対策と相続税の節税効果

 相続対策を行った結果として相続税が軽減されるのは、「財産が減る」、「非課税財産が増える」、「評価が下がる」、「財産が増えない」場合です。

 貸家を相続時精算課税制度によって贈与した場合、当該貸家は贈与した時の価額で相続税が課税されるので財産は減らないものの、月々の家賃が子に移ることから被相続人の財産が増えない効果が考えられます。農地の生前一括贈与によって農業経営が子に移ることから、子の財産が造成され生産性が高まることも想定され、節税効果と家業の発展効果が期待されます。

(税理士 西田 芳秋)