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税務相談

質問

 このほど養父の相続が発生しました。相続人が集まった初七日の席で「遺産は均等に分けてほしい」という長女の意見に他の相続人も同調していました。このままいくと相続は相当もめるのではないかと思います。相続人間で話し合いがまとまらない場合に相続税はどうなるのでしょうか。養子の私が相続を放棄したらどうなりますか。

回答

西田税理士

相続はなぜもめるのか

 均分相続の制度になって70年立ちますが、日本の社会は相変わらず家を中心に物事が進められてきました。家を守るものとして家計を助け親の面倒を看てきた跡取りと他の相続人との立場の相違が相続争いの発端のようです。家を守る大義をどこまで理解されるかが解決の糸口になりそうです。

なぜ遺産分割協議が必要なのか

 相続は人の死亡によって開始し、相続人は亡くなった人の遺産に属する一切の権利義務を承継することになっています。相続人が複数の場合は、遺産は各相続人の共有になりますから、これを解くために遺産の分割協議が必要なのです。共有物の分割ですから一人でも同意しない相続人がいると協議は成立しません。このまま共有状態が続くと仕事や生活に支障をきたすだけでなく信頼関係を失い親族関係は瓦解するかもしれません。

相続を放棄するとどうなるか

 相続は亡くなった人の財産や債務を相続人が当然に承継することになるので、相続財産以上の債務を背負ってしまうことがあります。そこで、相続人は相続が始まったことを知った日から三ヶ月以内に熟慮したうえで相続を放棄することができます。相続を放棄するとその人は初めから相続人にならなかったものとされ、相続順位が親・兄弟に移ったり他の相続人の相続分が増えることになります。相続の放棄があっても相続税を計算する場合は放棄がなかったものとされ、相続税の基礎控除額や相続税の総額は変らず、死亡共済金や死亡退職金の非課税枠も変らないのですが、相続を放棄した人が受け取った死亡共済金は非課税になりませんので留意して下さい。

節税は遺産分割が前提

 相続税の納税によって、生活や仕事に支障をきたさないようにと遺産分割又は遺言で財産を取得した者には、さまざまな特例が設けられています。しかしながら、遺言書がなく相続税の申告期限までに誰が何をどれだけ相続するかが決まらない未分割状態では各相続人が取得した財産を特定できず評価額を減額したり税額を軽減する特例を受けることができないのです。未分割での相続税の申告 相続税の申告期限は相続の開始を知った日の翌日から10ヵ月以内ですが、この日までに遺産分割の協議がまとまらなかった場合は、各相続人が民法の相続分の規定によって遺産を分割したものとして申告期限内に相続税を申告納税しなければなりません。相続税の申告期限後に遺産分割が決まり、各種特例の適用を受けることによって確定した税額が当初申告内容と異なるときは、分割の日の翌日から4ヵ月以内に修正申告または更正の請求をすることができます。相続人間の話し合いで差額を精算することもできます。

未分割では受けられない特例

 被相続人の居住用・事業用に使用していた建物の敷地について一定の要件のもとで最高730m3までの部分について80%減額される小規模宅地の課税価格の特例、配偶者が取得した財産のうち法定相続分または1億6千万円のいずれか大きい金額に対応する相続税額が軽減される配偶者の税額軽減の特例、農地の相続税の納税猶予の特例、相続税の物納申請など納付税額や納付方法を大きく左右する制度は、いずれも遺贈又は遺産分割によって取得することが要件になっています。とくに、共有財産を担保にする延納申請は他の相続人の同意が必要ですから留意して下さい。

分割時のために必要な手続

 小規模宅地の課税の特例や配偶者の税額軽減の特例は期限内に分割されることが要件ですが、納税額への影響を考慮して救済措置が設けられています。申告期限までに分割できない場合でも3年以内の分割見込書を税務署長に提出することによって、分割されてから4ケ月以内に当初の申告について更正の請求をして特例の適用を受けることができます。調停や裁判などにより申告期限から3年以内に分割できない場合には、適用期限をさらに延長してもらうための承認申請書を提出することができます。

分割取得したものとされる財産

 遺産が未分割であっても、受取人が指定されている生命共済金や死亡退職金、3年以内に贈与を受けた財産で相続財産に加算すべきもの、相続時精算課税制度による贈与財産、被相続人以外の人が契約者である共済契約の掛金を被相続人が負担していた共済契約などは、分割された財産とみなされ非課税規定や配偶者の税額軽減の適用を受けることができます。いずれにしても相続は早目、早目に進めていくこと、できれば遺言書を作成しておくとか生前に親子で話合う機会を重ねるなどの用意周到さがほしいところです。