JA埼玉みずほ

金融機関コード 4859

法律相談

駐車場借主が車を残置したまま失踪 ─法的措置で車の撤去処分を

質問

 貸駐車場を経営しています。契約者の1人が失踪してしまい、車だけ残っています。こちらで撤去してもよいでしょうか。駄目な場合、どのようにしたらよいのでしょうか。

回答

 契約者(借り主)が失踪して行方がわからない場合、貸主が車を勝手に片付けて処分すると、車の所有者、使用権者から損害賠償責任を問われることがあります(民法709条)。

 借り主が失踪して長期間賃料の支払がなされないとしても、そのことを理由に他人の所有物を勝手に処分することは許されません(自力救済の禁止)。

 ただ、駐車場に残置されている車が、例えばナンバープレートははずされ、しかも走行不能であるなど、もはや自動車(有価物)とは言えない廃棄物(無価値物、ゴミ)と化している場合には、これを貸主が撤去しても損害賠償責任を問われることはないでしょう。

 しかし、車が廃棄物(ゴミ)といえるか否かの判断は簡単ではありませんし、後日、借り主から車に入れておいた貴重品まで処分されてしまった、などと言い掛かりをつけられて損害賠償を要求されるケースも実際にありますので、安易に撤去することは危険であり、慎重に対応することが大切です。

 ですから、そのような場合には、貸主としては、通常、駐車場借り主、車の所有者、使用権者(車のナンバーから誰が所有者かなどを陸運局で調べる)らを被告にして、土地(駐車場)の明渡しと賃料等の支払を求める訴えを提起し、その勝訴判決を得て強制執行を申立て、その強制執行手続きによって車の撤去処分を行うのが一般的な解決方法です。

 このように法的手続きを講じて処理しておけば、後日、貸主が借り主や車の所有者、使用権者らから損害賠償責任を問われることはありませんので安心です。

 借り主が失踪して行方がわからなくても、「公示送達」(裁判関係文書を裁判所の掲示板に掲示することによって、その文章が被告に送達されたものとみなす制度)により、裁判を行うことはできます。

 あなたの場合は、貸駐車場の借り主が車を残置したまま失踪してしまったケースですが、アパートや貸し家の借家人が居室内に家具類を残置したまま失踪して行方がわからない場合についても、まったく同じことが言えます。つまり、その場合も貸室内に残置されている家具類を貸主が勝手に処分することは許されませんから、借り主を被告として、家屋明渡しと賃料等の支払を求める訴えを提起し、その勝訴判決を得た上で、強制執行により家具類を処分して家屋の明渡しを実現するのが一般的な解決方法です。このように法的手続きに従って処理しておけば、後日、家主が損害賠償責任を問われる心配はありません。


(弁護士 長島佑享)