JA埼玉みずほ

金融機関コード 4859

法律相談

農業手伝いによる寄与分は認められる? ―遺留分額は減らせず

質問

 父は畑7筆等を所有していましたが、財産全部を長男Aに相続させる遺言を残して死亡しました。相続人はAとその弟Bの2人です。Bは、Aに対して遺留分減殺請求をし、遺産の4分の1をBに返還するよう求めました。これに対し、Aは長年父の農業を手伝ってきたことによる寄与分を主張し、遺留分の返還に応じません。Aの寄与分の主張は認められますか。

回答

 まず、結論からいいますと、Aは、Bからの遺留分減殺請求に対して、自己の寄与分を主張(対抗)することはできません。

 従って、Aは、長年父の農業を手伝ったことによる寄与分があるとしても、父からBの遺留分を侵害する遺贈を受けている以上は、寄与分があることを理由として、Bからの減殺請求額を減らすことはできません。

 仮に、遺言がないまま相続が開始していれば遺産分割協議が必要になりますから、寄与をしたAは、父の遺産から、Aの寄与分を控除した残りを遺産として分割協議をするよう主張でき、Aは、残りの遺産からの相続分と自分の寄与分を取得できます。しかし、質問の内容の遺言であれば、遺産分割協議は必要ないので、寄与分の主張はできません。

 判例は、寄与分は当事者間で合意ができないときは家庭裁判所の審判により定められるものであるから、遺留分減殺請求訴訟において抗弁として主張することは許されないと判示しました(東京高裁平成3年7月30日判決)。

 従って、Aは、Bからの遺留分減殺請求に対して、AはAの寄与分を以て、Bの遺留分額を減らすことはできないことになります。

供託賃料受領すると値上げは撤回?一部弁済受領の明記を

質問

 建物を貸していますが、家賃の値上げについて紛争があり、借家人は家賃を供託しています。供託金が大分たまっているので受領したいのですが、受領すると値上げを撤回したとみられてしまいますか。

回答

 賃貸人が賃料増額を請求し、賃借人がそれに応じず従前額を払おうとしたところ、賃貸人が受け取りを拒否したという場合、受け取らなかったからといってそのままにしておくと、賃貸人から賃料不払の債務不履行責任を問われますから、賃借人は従前の賃料額を供託所(法務局)に供託することになります。

 供託された賃料を受け取るには、被供託者つまり賃貸人が「供託金払渡請求書」(用紙は供託所にあります)に記名押印(実印でします)して印鑑証明書(3か月以内のもの)を添えて申請すれば、供託金の還付を受けることができます。この申請をする際には、払渡請求書を作成する便宜上、供託通知書も持参するとよいです。

 ただし、賃貸人が増額請求の意思を撤回することなく供託金の還付を受けるためには、上記「供託金払渡請求書」の備考欄に「供託受託、ただし、賃料一部弁済受領の留保をする。」旨を記載しておくことが必要です。そうしないと、供託金を賃料全額の弁済として受領したものとされ、賃料増額請求を撤回したと解されてしまうからです。

 このため、実務では、賃貸人は賃借人に対し、内容証明郵便で、値上請求額よりも少額の供託金を賃料の一部に充当する旨を通知し、そのうえ、上記のように供託所に留保意思を明らかにして、供託金の還付を受けています(最判昭38.9.19)。

(弁護士 長島佑享)