JA埼玉みずほ

金融機関コード 4859

法律相談

「遺産の換価分割の回避 — 代償金支払いか分割協議を」

質問

 私は、夫名義の建物で暮らしていましたが、昨年夫が亡くなりました。遺産は、自宅の土地建物と若干の預貯金です。相続人は、私と長男の二人です。長男は自宅を売却して、売却代金を半分ずつ分けると言います。私は、自宅を売却すると住む家がありませんし、長男夫婦と同居したくないです。どうしたらよいでしょうか。

回答

 亡夫の主たる遺産が自宅の土地建物だけですと、建物と比較して敷地の面積が相当広い場合には、土地を価値的に2分の1ずつ公平に分割することも可能ですが、敷地がそれほど広くない場合には、土地を公平に2分の1ずつ分割することは困難なことです。

 このように、土地そのものを現物分割することが困難な場合には、自宅の土地建物を売却し(合意できなければ競売)、その売却代金を各相続人がその相続分(本件では2分の1)に応じて分配する換価分割をする以外にないでしょう。

 あなたが換価分割されることを回避するためには、あなたと長男との間で、(1)あなたが土地建物を取得し、その代わり、長男に相当額の代償金を支払う(2)土地は長男が、建物はあなたが取得し、長男から土地を無償または有償で借り受ける等を内容とする遺産分割協議を成立させることが必要です。

 なお、改正相続法(2020年4月1日施行)は、妻が亡夫の建物に相続開始時から居住していた場合には、遺産分割等によって同建物を他の相続人が取得した場合でも、妻に対して終身、同建物に無償で居住できる権利を認めました。従って、同法施行後に発生する相続では、妻は引き続き亡夫の建物に居住することができます。


「無効な遺言は全く無意味ですか? — 死因贈与として有効の可能性あり」

質問

 父が亡くなりました。「自宅・農地等の不動産については、全て長男Aに相続させる」との遺言書が見つかりました。ただ、この遺言書には印鑑が押されていません。このような遺言は無効ですか。無効な遺言ですと、何らの効力も生じませんか。

回答

 遺言は、厳格な要式行為であるため、方式違背がある場合には無効となり、遺言の効力は生じません(民法960条)。

 自筆証書によって遺言をする場合には、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自署し、これに印を押さなければなりません(同968条1項)。したがって、せっかく苦心して遺言書を作成しても、押印がないというだけで、遺言が無効になってしまうので注意してください。

 ただ、このような方式違背によって遺言が無効となる場合でも、それが贈与者(父親)と受贈者(長男A)との間に死因贈与契約が成立したと認められる可能性があります(広島高裁平成15年7月9日判決、東京高裁昭和60年6月26日判決など)。

 死因贈与とは、贈与者の死亡により贈与の効力が生じる契約のことです。死因贈与契約は、遺言とは異なり要式行為ではありませんから、贈与者と受贈者との間に合意さえあれば有効に成立します(同549条)。ですから、明示、黙示は問いませんが、受贈者の承諾があったと認められる必要があるため、少なくとも、父親の死亡前に長男Aが当該遺言の内容を認識していることが必要です。長男Aが父親の死亡後に初めて当該遺言の内容を認識したというのでは、死因贈与契約の成立は認められないでしょう。

(弁護士 長島佑享)