JA埼玉みずほ

金融機関コード 4859

税務相談

質問

 私は父から農地の生前一括贈与を受け、贈与税は納税猶予されています。 途中から農作業を父に手伝ってもらい会社へ勤めながら耕作してきましたが、その父が今年の1月に亡くなりました。他の相続人はそれなりの相続分を主張していることから、父の相続を機にいっそのこと農業をやめてしまうか、会社をやめて農業を続けていくべきかについて悩んでいます。家族の協力を得てこのまま農業を続けていく場合、廃業して農地や施設を貸したり処分した場合に税務上はどのような取扱いになりますか。

回答

農地の集約が進む農村

 農地は昔から家(世帯)単位で管理されてきたことから、農村社会の秩序と相互扶助のしくみを守ってきました。農業者は周りの人に迷惑をかけまいと高齢になっても畑に通い続け後継者が就かないまま相続を迎えてしまうのです。他の仕事に就いた跡取りにとって農業を継ぐことが大きな負担になり、経営の採算もさることながら地の担い手に託される耕地が農家単位の規模で増え続けています。

家を重んじる農家の相続だから

 相続とは亡くなった人の仕事や生活を相い続けることですから、跡を継ぐ人が必要な財産を引き継ぐところに意義があるわけです。「義務のない法定相続分」という権利が独り歩きしがちですが、農業の後継者になる人は地域社会と共存する我が家のために農地を優先して取得し耕作を続ける自負が必要です。今は他人の手を借りて耕作するとしても、定年になったら自信をもって専業とするか、農業生産法人に従事するなど地域農業の担い手たる位置づけがほしいものです。

生前一括贈与財産は相続税の課税財産に

 ここで相続が発生していますから、納税を猶予されていた贈与税額は届出によって免除されます。生前に一括贈与された農地はすでに跡取の名義になっていますが、改めて相続税の課税財産へ持ち戻して相続税額を計算する必要があります。贈与税の納税猶予を免除されたこの農地は相続人による分割協議を経なくても相続税の納税猶予を受けることができます。なお、生前一括贈与を受けたときに贈与税の課税を留保されていた農機具等の動産や被相続人の資金で購入した施設等は父の本来の相続財産として申告する必要がありますから留意してください。

相続税の納税猶予は終身営農

 相続税の納税猶予制度の適用を受けた場合も、会社に勤めながら終身営農を続けるかぎり継続して適用を受けられますから、定年後を見据えて選択することをお勧めします。農地法の改正に伴う新しい猶予制度では、規模拡大などを目的に農業生産法人を立ち上げた場合でも適用を受けている農地の「特定貸付制度」を、途中で心身の障害により営農を続けられない状態になっても「営農困難時貸付制度」により、納税猶予は継続されることになっていますから将来が見通せます。

農業をやめた場合の消費税

 農業を廃業した場合は1カ月以内に廃業届出書、青色申告の取りやめの届出書などを提出しなければなりません。被相続人の前々年の課税売上高が一千万円を超える場合は、農業を承継した相続人がその年の課税売上高に対して消費税を申告して納税する必要がありますので留意してください。

農業用施設を賃貸した場合

 農地や農機具等は大切な経営資源ですから、今もっとも必要とする人に利用していただくことが大切です。農地に利用権を設定した場合の小作料は不動産所得に、農業機械などの動産を賃貸した場合の賃貸料は雑所得になりますから租税公課や減価償却費などの費用を控除して所得を計算します。

農地を譲渡した場合

 農地が耕作放棄地にならないよう、 農業委員会などのあっせんによって農地を譲渡した場合は、一定の条件のもとで「農地保有合理化事業のための譲渡」として譲渡益から八百万円を控除することができます。さらに、相続税が課税される場合は相続税額のうち土地に対応する部分を譲渡した農地の取得費として5%の概算取得費に加算して控除することができます。譲渡税は譲渡物件の売り先や利用目的、取得原因などによって税負担が軽減されることがありますから事前によく確かめておきましょう。

農業をやめたあとに発生する費用

 農業をやめたあと、農業用資産の除却費用など廃業しなければ農業所得の必要経費になるようなものが発生した場合は、その事実が生じた日から2カ月以内にやめた年の所得税について更正の請求をして所得税の還付を受けることができます。