JA埼玉みずほ

金融機関コード 4859

税務相談

質問

 去年の8月に父が亡くなったので、相続人(配偶者と3人の子)が分割協議を進めていたところ、突然、裁判所から遺産分割の調停を開く旨の通知を受けました。相続税の申告期限までに遺産分割の話合いがまとまらなかった場合は、相続税の申告納税はどうなるのでしょうか。母親の相続のときはもっと争うのではないかと心配しています。これに向けてこれからどんな準備が必要ですか。

回答

なぜ、相続人全員の合意が必要なのか

 相続は人の死亡によって開始し、相続が開始すると相続人は被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継することになっています。相続人が二人以上の場合はこれを法定相続分で共有することになります。まさに、遺産分割協議はこの共有物を分割することに他ならず相続人全員の協議による合意が必要なのです。

遺産の分割を調停や裁判に委ねる

 亡くなった人の財産について、遺言書がなく死因贈与契約もない場合は、改めて遺産分割協議によって誰が承継するかを決めなければなりません。相続人間で話合いがつかず相続財産が相続人の共有のままですと不安定で不便ですから、遺産の分割を裁判所の調停や裁判に委ねる必要があります。つまり、第三者に分けてもらうということです。

合意が得られないときの相続税の申告

 相続(遺産分割によって財産を取得すること)又は遺贈(遺言や死因贈与契約によって財産を取得すること)によって財産を取得した者は、相続の開始を知った日の翌日から10ケ月以内に相続税を申告納税しなければなりません。期限内に何を相続するかが決まらない場合でも申告納税は猶予されません。つまり、申告期限までに分割協議や調停によっても遺産を分割することができないときは、各相続人は法定相続分で財産を取得したものとして相続税を申告し納税しなければならないのです。

未分割の場合は不利な申告納税に

 相続財産が期限内に分割されない場合は、各相続人が特定の財産を取得したことにならない訳ですから、相続又は遺贈によって財産を取得した者に認められている特例を適用する余地がなく、10ケ月以内に提出する相続税の申告書は分割した場合にくらべて不利な内容になってしまうのです。

相続預貯金が使えない

 遺産は未分割でも、全員の合意によって預貯金だけ払いもどしを受けて納税に当てることは可能です。自己資金で納税できる相続人はこれに賛同しないことも考えられ、余裕で調停に望むことが出来ますが、相続預貯金を当てにしていた相続人は納税資金に窮することになります。

相続税の延納を申請すると

 金銭で一括して納付することが困難な場合は、相続税を延納することができますが、延納税額が100万円を超える場合は担保が必要になります。未分割の相続財産は共有財産ですから、納税者は持分があるも、換金性がないとして延納を許可してくれません。固有の担保物件を持っていない相続人にとって厳しい納税環境を強いられることになります。調停が長引くと担保を用意できない相続人は延納申請を却下されるおそれがありますから留意して下さい。

未分割財産は物納申請できない

 相続又は遺贈によって財産を取得した者が納付すべき相続税は、金銭で納税することが原則ですが、金銭で納税できない部分は延納することができます。延納によってもなお納税できない部分は相続によって取得した財産を物納することができます。まだ分割されていない財産はたとえ相続人の持分があっても単独で処分できないので物納することができません。なお、相続税を物納する場合は申告期限内に物納申請書を提出しなければなりません。したがって申告期限内に調停が整わない場合は物納することができないことになります。

相続税の納税猶予は受けられない

 相続又は遺贈によって農地を取得した場合の農地の相続税の納税猶予制度は、申告期限内に取得した農地とともに農業相続人としての適格証明書が発行される見込みがなければ適用を受けることができません。この特例は申告期限後において農地を分割取得されても適用を受けることはできません。

分割できるまで小規模宅地の評価の特例はない

 被相続人が住んでいた居宅の敷地、被相続人の事業用の建物の敷地などについては最高730m2までの部分を80%減額できる有利な制度(小規模宅地の評価の特例)は、相続人がこれらの財産を相続又は遺贈によって取得した場合に適用されます。したがって適用対象者がこれらの土地を調停などによって取得できるまではこの特例の適用がありません。そこで、申告期限内に提出する未分割の申告書には、近い将来に分割の見込みである旨の「分割見込書」を添付して、調停成立後にこの特例の適用を受けることにします。なお、申告期限から3年以内に調停が不成立であり、さらに訴訟が提起される場合には、その時から2ケ月以内に「やむを得ない事情の申出書」を提出しておかなければ後日この特例を受けることができません。

分割できるまで配偶者の税額軽減はない

 相続又は遺贈によって被相続人の財産を取得した配偶者が納付すべき相続税については、相続税の総額のうち、相続財産の1/2または1億6000万円のいずれか大きい金額に対応する部分は軽減されます。したがって、相続又は遺贈によって取得した財産がこれらの金額の範囲内であれば、相続税を納税する必要はありません。ただし、遺産が分割(調停が成立する)されるまではこの特例の適用を受けることが出来ません。

これからどうする

 遺産分割の調停では、相続の本質に立ち返り共同相続人としての権利と義務を明確にして、相応の遺産を承継することが大切です。次の相続で同じ轍を踏まないためにも、生前協議を重ねて承継すべき財産と債務を特定し話合いの結果を遺言書にまとめること。申告期限までに想定される納税額に相当する共済金が支払われるよう共済に加入し受取人を指定しておくこと。各相続人ごとに特定した財産はできるだけ生前に贈与していく工夫が必要です。相続が円満であれば相続税を余計に納めないで済むわけですから、くれぐれも節税対策を優先することなく、結果としての効果を求めることが得策です。