JA埼玉みずほ

金融機関コード 4859

税務相談

質問

 昨今は、夫の相続のことや家を誰が嗣ぐべきか、夫亡き後の生き方などを家族で話し合うことが多くなりました。これからの家と家業を守り配偶者の老後の暮らし方を考えた場合、配偶者は何を相続すべきでしょうか。相続税を余計に納めないためにどんな工夫が必要ですか。

回答

農家の相続は家を中心

 「個人の尊厳」「男女の平等」を謳った今日の民法は、昭和22年5月3日から家督相続の制度を廃止し均分相続になりました。すでに74年経ちますが日本の社会は相変わらず家を中心に物事が進められています。とくに、農業は隣近所との協調が必要ですから営農と生活は、家と家の信頼関係で成り立っています。家を守ることは地域社会で生きる必須条件なのです。それだけに相続が始まると後継者は家業を継ぎ祭祀を主宰するために、家産のほとんどを相続して集落の秩序を維持してきたのです。

均分相続が定着してきた

 社会生活の環境が変わってきたことから、子ども達の生き方とも相まって、親の財産が子どもの生活設計に組み込まれてきました。とにかく均分相続を主張する者が増えてきた。家を考える長子と個人を優先する相続人との相続観の違いが表面化してきたのです。親の扶養や家業のことが争いの種になっていないのも特徴です。

相続後の配偶者の生活費

 配偶者は、やがて自らの老後を子に委ねるものとして後継者に全幅の信頼を寄せ、先代がやってきたように遺産は家のものとする考え方が強い。しかし、少子高齢化につれ自助努力の必要性を誰よりも実感している年齢層でもある。平均寿命や結婚年齢の差を勘案すると、配偶者が一人で暮らす期間は12年以上になる。この間の生活費、介護費用の総額は3,800万円と試算できる。毎年70万円の年金収入があっても、2,960万円の資金を用意しておかなければなりません。

生前対策が重要

 収入増が見込めない子どもたちに負担をかけないとして、被相続人は老後のために計画的な貯蓄をする。配偶者を受取人とした終身共済に加入する、生前に不要な不動産を処分して金融資産に変えておく、遊休資産を稼働資産に組み替えて収入源を確保する、公的年金を補完する個人年金共済に加入する。障害者になった配偶者や子の生涯保障としての特定障害者扶養信託契約を締結しておくなど、老後の生活に必要な収入のしくみを生前に準備しておく必要があります。子や孫達への生前贈与に優先する課題です。

配偶者は何を相続したらよいか

 障害者のための特定扶養信託は、受益者(配偶者や子)に生活資金としての年金が支給されますから、懸案が解消するかもしれません。信託受益権(年金を受給する権利)について信託者(被相続人)と受益者の間に贈与関係が発生しますが、特別障害者の場合は6,000万円まで、普通障害者には3,000万円まで贈与税は非課税になっています。とにかく、配偶者の老後の生活はお金がかかります。生前の蓄えが老後を左右することになるでしょう。まとまった現金預金よりも、定期的に入ってくるしくみの方が相続税の節税になります。相続が始まったら配偶者が取得できるように遺言や契約を整えておきましょう。一人になった配偶者にとって住み慣れた我が家は、老後の安寧の場として必要な生活手段です。配偶者が住まいを優先して相続すると、金融資産を取得できないかもしれない。

配偶者居住権

 そこで、居宅と敷地の半分を子と共有できれば心強いものがありますが、居住権のみ取得することも可能になりました。子が居宅と敷地の所有権を取得しても、配偶者は無償で終身住み続けることができる配偶者居住権の制度です。この制度は被相続人が遺言するか相続人間の遺産分割協議で決めて登記することも可能です。遺言や分割協議がなくても最低6ケ月(または遺産分割が決まるまで)は居住する短期居住権も認められています。できれば、20年以上連れ添った配偶者なら、居住用財産の生前贈与の特例(2,000万円まで非課税、しかも持ち戻し計算は不要)の特例を使って生前に準備したいものです。